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千葉家庭裁判所松戸支部 昭和62年(少ハ)1号 決定

少年 T・T(昭42.7.2生)

主文

1  本人を昭和63年3月31日まで中等少年院に継続して収容する。

2  神戸保護観察所長は、本人の出院準備のため、早急に次の環境調整に関する措置をとること。

イ  援護施設等への入所を含む、帰住先の選定

ロ  適当な就職先の確保

ハ  本人と家族とりわけ父及び弟との間の融和のための助言

理由

(申請の要旨)

本人は、昭和61年10月1日千葉家庭裁判所松戸支部で、電汽車往来危険保護事件により中等少年院送致の処分を受け、同月3日神奈川医療少年院に収容され、同62年5月19日少年院法11条1項但書による収容継続の決定がなされ、同年9月30日をもつてその収容期間が満了するものである。

本人は知能的な負因があり、思いどおりにならないと情緒不安定になりやすく、その成育過程において対人不信感を抱いており、入院当初から、備品を屋外に投げ捨てる等の八つ当たり的行動があつた。作業面では熱心に取り組み、一定の成果もあるので、昭和62年7月1日付で1級の上に進級したが、本人の資質や上記のような性格の偏りの問題は大きく、現状においてもなお改善されたとはいえない状態である。

本人の家族は、本人を引き受ける意志はあるものの、情緒不安定な本人の帰住による生活の動揺を危ぐしており、福祉事務所にも相談しているが、本人のための適当な帰住先を見いだせず、苦慮している状態である。

以上のような、本人の矯正の現状及び帰住環境の実状のため、仮退院後も当分の間必要と思料される保護観察の期間をも考慮して、昭和62年10月1日から6か月間の収容継続の決定を求める。

(当裁判所の判断)

1  本人は、兵庫県朝来郡○○町の自宅を家出して放浪中の昭和61年8月7日から同月15日の間、前後7回にわたり、千葉県野田市内の鉄道軌道上に、石塊やコンクリート塊等を置く非行を犯し、同年10月1日、当庁で電汽車往来危険保護事件により中等少年院送致の決定を受け、神奈川医療少年院に収容された。

2  本人は、出生時に罹患した疾病により脳障害を来し、知能は精神薄弱との境界領域にある。そしてこのような知能的な負因等のため、幼い頃からいじめられたり馬鹿にされたりすることが多く、対人不信感を強め、次第に自閉的な性格を形成した。そのため、人格的な成長も遅れ、自己統制力にも乏しく、対人関係の些細な事柄に捕らわれては情緒不安定となつて、内に不満感をうつ積させたうえ、八つ当たり的な攻撃的行動にでる傾向がある。上記の電車軌道への置き石の非行も、本人のこのような性格傾向の発現として理解することができるものである。

3  本人の上記のような問題点に対し、神奈川医療少年院では、個人別教育目標として、(1)自己統制力を養わせる、(2)円滑な対人関係を身につけさせる、(3)自発性を養わせる、との3点を設定して矯正教育を開始した。なお、本人の資質上の問題もあり、短期間での矯正は困難であつたため、昭和62年5月19日少年院法11条1項但書による収容継続の決定がなされ、収容期間は同年9月30日までとされた。そして、その処遇経過についてみると、本人は作業等の日課には比較的熱心に取り組み、教官の指導に対しても素直に従つてきており、入院当初から散発した、夜間に洗面所の掃除道具を屋外に投げ捨てる、鉛筆を折るなどの問題行動も次第になくなり、同年7月1日付で1級上に進級しており、一応の教育効果を認めることができる。しかし、本人の資質や、性格上の問題は根深く、同年8月19日には他の在院者にからかわれたことに立腹して、ドアを足蹴りにし、ガラスを手拳でたたき割るとの行為に及んで院長訓戒の懲戒を受けており、対人関係においてもなお好悪の区別が激しく、自分本位の考えかたをしやすく、生活態度も受動的であつて、上記の個人別教育目標が達成されたものとは認めがたい状態である。従つて、本人が安定した社会生活を送るのは、現状ではなお困難であり、対人関係等で容易に挫折して情緒不安定となり、再び社会的な逸脱行動に走るおそれがあるといわねばならない。このような本人の問題点の改善のため、なおしばらくの期間矯正教育を施すことは、これまでの処遇経過に照らして有益であり、またやむをえないものと認められる。

4  さらに、本人の出院後の受け入れ態勢についてみるに、本人の家族は、頭書の帰住予定住居地に両親と高校生の弟(当17歳)が居住しており、本人の受け入れ意志はあるものの、比較的狭隘な住宅事情にあるうえ、従来から、本人は父の養育態度を厳しく感じてなじまず、弟は自分を馬鹿にするからと嫌つてきたもので、本人のそのこだわりは現在も続いているため、上記住居地での家族との同居が適当か否かはなお検討を要するところであり、両親においても福祉事務所に相談するなどして、援護施設等を捜しているものの、適当な施設を見いだせず、若慮している現状である。本人自身上記の住居地は田舎で自分の好みに合わない旨述べているところでもあり、本人の帰住先の選定は、本人の父及び弟に対する感情の改善、就職先の確保とあわせ、なお調整を進める必要がある現状である。

5  以上によれば、現状においては本人の犯罪的傾向はまだ矯正されておらず、かつ退院後も相当期間の保護観察による補導、援護が当然必要と思料されるので、本人の改善の程度、帰住環境の情況等一切の事情を考慮して、なお収容継続を要する期間を昭和62年10月1日からさらに6か月間とし、本人を昭和63年3月31日まで中等少年院に継続して収容することとする。

なお、本人の出院後の受け入れ態勢について、早急に整備しなくてはならない上述の問題があり、それらの事柄の性質上本人の家族の努力にも能力的な限界があるものとも考えられるので、所轄の神戸保護観察所長に対し、主文第2項掲記の事項につき、積極的な協力・援助を要請することとしたものである。

6  よつて、少年院法11条第1項、少年審判規則55条、少年法24条2項、同規則39条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村直文)

〔参考〕 収容継続申請書

神医少発第61~53号

昭和62年8月28日

収容継続決定申請書

千葉家庭裁判所松戸支部 御中

神奈川医療少年院長 ○○

少年 T・T昭和42年7月2日生

本籍 兵庫県朝来郡○○町○○××番地の×

住所 兵庫県朝来郡○○町○○××の×○○住宅×号

上記少年は昭和61年10月1日貴裁判所において少年院送致の決定を受けたもので、昭和62年9月30日期間満了となりますが、別紙理由によりなお矯正教育及び保護観察の期間を設ける必要があるものと認められますので、少年院法第11条第2項以下による収容継続の決定をされたく申請いたします。

保護番号 昭和61年少第1449、1456、1476号

担当裁判官 ○○

1 処遇経過

61.10. 3 千葉少年鑑別所から入院 2級の下編入

10.11 考査終了 予科編入

12. 1 本科編入 作業療法 陶芸科 心理療法 キネジ療法→サイコドラマ

62. 1. 1 2級の上進級

1.26 優等賞(書き初め)(はり絵)

4. 1 1級の下進級

5.19 少年院法第11条第1項但書収容継続 62.9.30まで

5.22 準備調査

7. 1 1級の上進級

7.16 仮退院申請

2 心身の状況

(1) 知能IQ=55以下新田中3B式IQ=70鈴木ビネー式

(2) 性格思い通りにならないことがあるとすぐ情緒不安定になり、八ツ当たり的な行動に走ったりしやすい。小さい時から馬鹿にされ続けている。従って、人は自分を攻撃する信用のできないものと感じやすい。そのため対人場面では必要以上に不安を高めやすく、のびのび振る舞うことができにくく、相手の些細な言葉に自分を傷つけられたと感じ、いつまでもクヨクヨする。

3 引受状況

家族は両親、弟と本人の4人家族である。昭和62年6月4日付け神戸保護観察所の環境調整追報告書によれば、引受の意志はあるものの少年の精神状態の不安定を心配しており、このまま少年が帰住したら家庭が崩壊してしまうのではないかと危惧している状態にある。

家族は福祉施設への導入も考え福祉事務所に依頼しているが、まだ適当な施設は見つかっていない。また、少年も家族の許への帰住を嫌っている状況にあり、帰住環境は未だ整っていない。

4 収容継続を必要とする理由

本人は入院当初から、夜間、洗面所の掃除用具を屋外に投げ捨てるといった八ツ当たり的行動があり、その回数は処遇経過とともに暫時減少してきたが、現在もそうした行動が時折見られる。しかし、作業面では仕事の選り好みをせず熱心に働いており、他の日課についても職員の指示に従い真剣に取り組んでいた。

そのため本年7月1日付けで1級の上に進級したが、上記のような問題行動があり、予後が不安なため、本年7月2日満令に達するも、とても退院させられる状態でなかった。

そこで7月16日付けで本年10月15日を希望日として仮退院許可の申請をした。

なお、上記引受状況で述べたとおり、帰住環境にも若干の問題が残っており、また、本人の性格の偏りと問題性の大きさを考えると仮退院後も当分の間保護観察に付す必要がある。

よって、保護観察期間を含め本年10月1日から6ヵ月の収容継続決定の申請をいたします。

5 添付書類、添付資料

(1) 個別的処遇計画

(2) 成績経過記録表

(3) 環境調整追報告

(4) 電話書留簿

(5) 少年調査記録送付

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